「トマトは野菜?それとも果物?」——栄養学的には野菜、植物学的には果実(果物寄り)とも言われ、実はスッキリと定義しきれない、地味に厄介な問いです。こうした「言葉の定義」を巡る曖昧さは、実はWebサイトのカテゴリ設計を考える上でも、大事なヒントになります。
プロトタイプ理論とは: 定義ではなく「典型例」でカテゴリを認識する
人がカテゴリーを理解するとき、厳密な条件だけでなく「そのカテゴリーらしい代表例」を基準に判断するという考え方を「プロトタイプ理論」といいます。
- 「鳥」と聞くと、ペンギンよりスズメやハトを先に思い浮かべやすい
- 「家具」と聞くと、棚より椅子やテーブルが典型例として浮かびやすい
- トマトが野菜か果物かで迷うのは、カテゴリの境界が曖昧だから
- ECで「スニーカー」を靴カテゴリに置くと、多くの人が迷いにくい
- サイトの「コラム」に何を入れるか迷うとき、読者が想像する典型的な内容が判断材料になる
1970年代、認知心理学者エレノア・ロッシュらによって提唱された「プロトタイプ理論」という考え方があります。人が実際に持っているカテゴリの認識は、厳密な定義によって規定されるものではなく、「これぞ典型的な例(プロトタイプ)」というイメージと、それにどれだけ似ているかという類似性によって、緩やかに特徴づけられている、というものです。
例えば「鳥」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのはスズメやハトのような姿でしょう。ペンギンやダチョウも生物学的には鳥類ですが、「鳥」の典型例(プロトタイプ)からは離れているため、とっさに思い浮かぶ優先順位は低くなります。カテゴリは、白黒はっきりした境界線でできているのではなく、「中心に近いか、外れているか」という、グラデーションのような構造をしている、というのがこの理論のポイントです。
実際、農林水産省の公式サイト(アーカイブ)でも「野菜と果物の分類に、はっきりした定義はない」と説明されています。分類は国によっても異なり、日本国内でも生産・流通・消費といった分野ごとに扱いが変わることがあるそうです。トマトが野菜か果物かで意見が割れがちなのも、こうした背景があるからなのですね。
Webサイトへの応用: カテゴリ名は「正確さ」より「伝わりやすさ」
企業サイトでよくある「よくある質問」を、「商品について」「会社について」のようにシンプルなラベルで分けるか、より厳密に「商品情報」「企業情報」と分けるか——どちらが適切かはケースバイケースですが、学術的・辞書的な正確さより、多くのサイトで採用されている「見慣れた分類(典型例)」に寄せる方が、ユーザーには伝わりやすいことが多いです。ユーザーは初めて訪れたサイトでも、他の多くのサイトで見た経験のあるカテゴリ構成なら、直感的に「ここを見ればいいはず」と予測できるためです。
カテゴリ設計では「典型例」を先に並べてみる
新しいカテゴリを作るとき、カテゴリ名だけを眺めても分かりづらいものです。そこで、各カテゴリに入りそうな代表記事や商品を5〜10件ほど並べます。そのうえで「この記事はどこ?」のような境界ケースを検討すると、カテゴリーの中心と境界が見えてきます。
「ユーザーの頭の中の分類」を確認する方法
作り手だけでカテゴリーを決めると、社内用語や専門家の分類へ寄りがちです。実務ではカードソートが使えます。記事名や機能名をカードにして、似ていると思うものをまとめてもらい、そのグループに名前を付けてもらうことで、ユーザーがどのように情報を分類しているかを確認できます。ツリーテスト(作ったカテゴリ構造の中で目的の情報を見つけられるか確認する手法)を使えば、実際の構造がユーザーにとって探しやすいかも検証できます。
1つのカテゴリに収まらない時は「ファセット型」で整理する
化粧品を「肌の悩み」で分類したい場合、「乾燥が原因の脂性肌」のような商品はどのカテゴリに入れるべきか迷います。こうした、1つの正解カテゴリに収まらない商品・コンテンツは、「脂性肌」「乾燥肌」「年齢肌」のように複数の切り口(ファセット)を用意し、該当する全てのカテゴリに紐づけるという設計が有効です。ユーザーは自分の悩みに近い言葉から探せるので、無理に1つに絞り込まれるより快適に目的の情報にたどり着けます。ECサイトの「絞り込み検索」機能は、この考え方の代表的な実装例です。
「典型から外れると必ず離脱する」わけではない
典型的でないものは認識に少し時間がかかることがありますが、それだけでユーザーがストレスを感じたり離脱したりするとは限りません。新しいサービスでは、新しいカテゴリーそのものを作る必要もあります。その場合は、分かる名称を付ける・例を見せる・説明文を付ける・複数の導線からたどれるようにすることで、新しい分類を理解しやすくできます。
まとめ
- プロトタイプ理論とは、人がカテゴリを厳密な定義ではなく「典型例との類似性」で認識するという考え方
- Webサイトのカテゴリ名は、学術的な正確さより「多くの人が見慣れている分類」に寄せる方が伝わりやすい
- カードソートやツリーテストで、作り手ではなくユーザーの分類感覚を確認できる
- 1つのカテゴリに収まらない場合は、複数の切り口で分類する「ファセット型」の設計が有効
人がどう物事を分類し、意思決定していくのかをより深く知りたい方には、行動経済学の入門書もおすすめです。

