「嘘をつくと視線が動く」は都市伝説?UIデザインへの応用【視線解析】

「嘘をつくと視線が動く」は都市伝説?UIデザインへの応用【視線解析】

「嘘をつくとき、人は視線が右上に動く」——心理学系の本や、刑事ドラマの尋問シーンなどで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。この説はNLP(神経言語プログラミング)という分野で広まった「視線解析(アイ・アクセシング・キュー)」という考え方が元になっています。今回はこの説の実態と、Web制作への応用を考えてみます。

視線解析とは何か

人の視線の向きや動きを手がかりに、注意や情報処理の状態を読み取ろうとする考え方を「視線解析」と呼びます。ただし、「視線の方向だけで嘘を見抜ける」という俗説には科学的な裏付けがありません。

💡 身近な5つの例
  • 人と話しながら昔の場面を思い出すと、ふと視線が外れることがある
  • 難しい質問をされたとき、答えを考えながら一点ではなく別方向を見ることがある
  • Webページでは大きな見出しや人物写真へ最初に目が向きやすいことがある
  • ECの商品ページで価格やCTAへ視線が集まるかは、レイアウトによって変わる
  • ヒートマップで赤い場所があっても「好かれている」とは限らず、迷って見ている場合もある

視線解析の考え方はこうです。人は頭の中で情報を処理する時、その処理の種類によって無意識に視線を動かす方向が決まっている、というものです。

過去の記憶を思い出す時は左上、新しいことを想像(創造)する時は右上に視線が動きやすい、とされます。「嘘」は多くの場合、頭の中で新しい情報を作り上げる行為なので、視線が右に動きやすい——という理屈です。

⚠️ 「嘘と視線の関係」は実証研究で否定されている

ここは誤解が広まりやすいポイントなので、はっきりさせておきたいと思います。2012年に学術誌PLOS ONEに発表された研究では、被験者に嘘をつかせたり本当のことを話させたりして視線の動きを記録・分析しました。

結果、「嘘をつく時に特定方向へ視線が動く」というパターンは確認できなかったと報告されています。研究チームは、この視線解析による嘘の見抜き方は根拠がないとして、実務(尋問など)で使うのをやめるよう呼びかけています。

一方で、NLP擁護派からは「そもそもNLPの提唱者(バンドラー氏・グリンダー氏)自身は、視線で嘘を見抜けるとは主張していない。この研究は歪められた俗説を検証しただけだ」という反論も出ています。

つまり、「視線だけで嘘か本当かを判定する」という俗説は科学的根拠に乏しい一方、「人が思考の種類によって視線を動かす傾向がある」という、より緩やかな観察自体は今も議論が続いている、というのが正確なところです。

というわけで、「嘘を見抜くテクニック」として視線解析を信じ込むのは避けた方が良さそうです。ただ、「視線の動きと、記憶・未来といった概念が緩く結びついている」という感覚自体は、実際のWebデザインの現場でも経験的に使われている考え方でもあります。ここからは、俗説の真偽とは切り離して、UI設計への応用を見ていきましょう。

Webサイトへの応用: 「進む」ボタンはなぜ右に置かれることが多いのか

フォームの入力画面などで、「次へ進む」ボタンが右、「戻る」ボタンが左に配置されているのを見たことがあると思います。これは、ブラウザの「戻る」ボタンが左、進む方向が右という慣習に、私たちがすでに慣れているためです(これは前回の記事で紹介した「アフォーダンス」——見慣れた操作パターンの話とも重なります)。「進む」ボタンを左に置くと、ユーザーは一瞬「あれ?」と戸惑い、間違って「戻る」を押してしまう可能性が高まります。

カルーセル(スライドショー)の動く方向にも同じ理屈が使える

ECサイトの商品カルーセルなどで、右向きの矢印を押すと次の商品(未来の情報)が表示され、左向きの矢印を押すと直前に見ていた商品(過去の情報)に戻る、という動作も同じ考え方です。この向きを逆にしてしまうと、ユーザーは無意識の予測と実際の動作がズレてしまい、地味なストレスを感じます。Swiper.jsでスライドを実装する方法でも、この左右の方向は標準の動作(左が戻る、右が進む)のまま使うのがおすすめです。

💡 「時間の流れ」を表現したい時も左→右が基本

会社の沿革ページや、料金プランの「導入前→導入後」といった時系列を表現するインフォグラフィックを作る際も、左から右に時間が流れるレイアウトにするのが基本です(日本語の横書きの読み進め方向とも一致するため、二重に自然に感じられます)。逆に右から左に時間が流れるデザインは、意図的に違和感を演出したい場合を除いて避けた方が無難です。

「視線データ」自体もテンプレートにしない

アイトラッキング(視線計測)は、ユーザーがどこを見たか、どの順序で見たかなどを実際に計測する手法で、UI/UX評価に使われます。ただし「見た=理解した」「長く見た=好まれた」とは限らず、タスク成功率や操作ログ、インタビューなどと組み合わせて解釈する必要があります。またWebでよく使われるMicrosoft Clarityなどのヒートマップは、クリック・タップ・スクロールといった行動を可視化するものであり、専用のアイトラッカーで眼球位置を直接計測しているわけではありません。「赤い場所=見られた場所」と単純化しないようにしましょう。

Web閲覧の視線パターンとして「F型」が有名ですが、これもすべてのページで人が同じ形に視線を動かすことを保証するテンプレートではありません。ページの目的やレイアウト、探している情報によって視線の動き方は変わります。「F型だから左上に全部詰め込む」のではなく、見出しを具体的にし、重要な情報を見つけやすくする設計のヒントとして使うのが実用的です。

まとめ

  • 「嘘をつくと視線が右に動く」という俗説は、2012年の実証研究で否定されている。鵜呑みにしないよう注意
  • その一方、「進む=右」「戻る=左」という慣習は、ブラウザ操作への慣れから実際にUIデザインで有効に働く
  • カルーセルの動作方向やタイムラインのレイアウトも、この左右の感覚に合わせると違和感なく使ってもらえる
  • アイトラッキングやヒートマップ、F型パターンも「見た=好まれた」と単純化せず、他のデータと組み合わせて解釈する

「目は口ほどに物を言う」とはよく言ったもので、表情や視線から人の心理を読み解こうとする研究は今も盛んです。もう少し掘り下げて読んでみたい方には、表情研究の第一人者ポール・エクマンの著書もおすすめです。